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福島地方裁判所 昭和48年(ワ)21号 決定 1973年5月23日

原告 渡辺和喜子

被告 八巻誠

主文

本件を仙台地方裁判所に移送する。

理由

(一)  本訴請求は、要するに、「原告は、昭和四六年五月八日被告と婚姻し、埼玉県浦和市に新居を構えたが、その後生活費等が原因で原・被告間に軋轢が生じ、被告は、離婚を主張するに至り、これに応じなかつた原告に対して、同年一〇月一日殴る蹴るの暴行を加え、その意思を抑圧して離婚届用紙に署名捺印させ、翌日これを浦和市役所に提出し、右協議離婚届は受理されてしまつた。原告は、右暴行により頭部挫創・頸椎捻挫の傷害を受け、長らく通院加療するも、今もつて頭痛等の症状に苦しんでいるが、いまやかように粗暴な被告との婚姻継続の意思を失い、前記無効の離婚届を追認せざるをえなくなつた。以上のとおり、原告が被告の暴行虐待を受け、かつ離婚のやむなきに至つたことにより蒙つた肉体的・精神的苦痛を慰藉するためには少くとも金二〇〇万円を必要とするから、原告は、被告に対し慰藉料金二〇〇万円とこれに対する右不法行為の後である本件訴状送達の翌日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」というにある。

(二)  ところで、記録によると、被告の住所は、本訴提起時より肩書の東京都武蔵野市にあり、原告の住所は、本訴提起時には埼玉県蕨市にあつたことが明らかであるから、民事訴訟法第一条・第二条第一項による被告の普通裁判籍所在の管轄裁判所は東京地方裁判所八王子支部であり、同法第五条による義務履行地として、また、本訴請求原因事実によれば同法第一五条第一項による不法行為地として、それぞれ特別裁判籍所在の管轄裁判所は浦和地方裁判所であるというべく、当裁判所には、何ら管轄がないといわなければならない。

そして、記録によれば、被告は、その普通裁判籍所在の管轄裁判所へ本件を移送することを求めているので、当裁判所に応訴管轄を生ずる見込もない。

(三)  そこで、以下本件を移送すべき裁判所につき検討する。

記録によると、原告は、本訴提起後、前記住所地より実家のある宮城県岩沼市の肩書住所地に転居したことが認められるところ、訴訟の移送を受ける裁判所の管轄は、移送決定の時に存すれば足るものと解すべく、したがつて、本件につき、義務履行地の管轄裁判所として移送を受くべき裁判所は、浦和地方裁判所ではなくして仙台地方裁判所であるというべきである。

もつとも、民事訴訟法第二九条は、起訴の時を標準として裁判所の管轄を定める旨規定しているので、本訴提起時において右土地管轄のない仙台地方裁判所に、本件を移送することは、一見許されないようにも考えられるが、右法条にいわゆる「裁判所」とは、訴えの提起を受ける裁判所(本件に即していえば、移送決定をする受訴裁判所たる当裁判所であつて、移送を受ける裁判所ではない。)を意味するものと解されるから、右の見解には従いえない。

ところで、記録によれば、原告は、本件につき、無資力を理由に法律扶助協会の法律扶助および当裁判所の訴訟救助を受けたもので、証人として岩沼市に居住する両親・媒酌人・その他参考人の尋問を求める予定でおり、そのような関係から、原告の現住地を管轄する仙台地方裁判所への移送を求めている。このような事情・とくに原告による管轄裁判所選択の意思を考慮するならば、被告において不利益を受けることは免れないが、本件は、仙台地方裁判所において審理するのが、他の管轄裁判所において審理するよりも相当であるというべきである。

(四)  よつて、職権により民事訴訟法第三〇条第一項を適用して、主文の通り決定する。

(裁判官 佐藤邦夫 岩井康倶 久保内卓亜)

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